「教科書の本文が難しすぎる」「子どもがなかなか読解できない」
……とお悩みの保護者・家庭教師・塾講師の方に、教え方のコツ(読解を助ける方法)をご紹介します。
教科書の本文を読み解くのが難しいのは、なぜか? まずはその原因を翻訳者の視点も交えながら解説します。それらの原因を踏まえた上で、読解を助ける方法を見ていきましょう。
ちょっとした工夫で、子どもたちが教科書の本文を読み解きやすくなりますよ。
本文の読解を難しくしている原因
教科書の本文(会話文、長文)が難しく感じられる原因としては、次の3つがよく挙げられます。
- 覚えるべき単語の数が多い
- 文法が難しい
- 一文が長くて複雑
確かに習う単語の数は以前より多くなりました。長くて複雑な文も目立ちます。
ですが実際のところ、子どもたちが本文を難しく感じてしまう大きな原因はコレではないでしょうか↓
「よく知らないテーマについて、よく知らない言語で学んでいるから」
たとえば英語の教科書で扱われているテーマには、次のようなものがあります。
- 人権問題
- 国際協力
- 環境問題
- ユニバーサルデザイン
- エシカルファッション
- AI技術
- 外国の文化・スポーツ
このようなテーマは、多くの中学生にとっては未知の世界です。たとえ日本語で学んだとしても、パパッと理解できる内容ではありません。
ましてや、よく知らない言語(英語)を使って理解を深めるのは、かなり難しいでしょう。
しかも3年生にもなると、抽象的なテーマの単元も出てきます。そうなると、「よく知らない抽象的なこと」について「よく知らない言語」で書かれた文を読むわけです。これでは難しくないはずがありませんよね。
未知のことを未知の言語で学ぶべからず
多くの子にとって、英語は「未知の言語」だと思います。
「まったくの未知」ではないにせよ、未知の部分は大きいでしょう。「be動詞と一般動詞の違い」という英語の基礎を理解していない子も少なくありませんからね。
基礎ができている子にとっても、新しく出てきた文法については未知の部分があるはずです。
そんな「未知の言語」を学びながら、同時に「未知のテーマ」(人権問題、国際協力など)について学ぶのは、負荷が大きいでしょう。2つの異なるタスクに、同時に取り組んでいるわけですから。
こうした状況では、たとえ学習者が大人であっても、負荷はやはり大きくなります。
たとえばポルトガル語を学び始めたばかりの人が、「相対性理論について書かれた文章を教材にしてポルトガル語の文法を学ぶ」なんて、無理ですよね。
しかもこのやり方は効率が悪すぎます。相対性理論について知りたいのであれば、母語(日本語)で学んだほうが理解しやすいはずです(もちろん簡単ではありませんが…)。
また、初級学習者が文法を習得したいのであれば、未知の分野について書かれた文章にあえて挑む必要はないでしょう。自分がすでに知っている分野の文章に触れたほうが、文法の習得にフォーカスできます。
このように、「未知のこと」を「未知の言語」で学ぶのは負荷が大きいですし、効率も良いとは言えません。
読解には背景知識が不可欠
とは言うものの教科書には、未知のことが未知の言語で書かれています。では、どうすればいいのか? オススメなのはコチラです↓
「教科書の本文を読む前に、そのテーマの背景を大人が日本語で教えておく」
たとえばテーマが「海洋プラスチック問題」なら、それに関する基本的な情報や環境問題特有の用語を教えておくのです。
「なーんだ、それだけか」と思われたかもしれません。ですが、背景知識があるのとないのとでは大違い。「読解の深さ」や「文法の習得」に大きな差が生まれるのです。
【背景知識がある場合】
●話の流れを予測しながら読める。
●文の意図を読み取りやすい。
●文脈を理解できるので日本語に訳しやすい。
●文法の習得にフォーカスしやすい(テーマを理解することに大きなエネルギーを使わずにすむため)。
【背景知識がない場合】
●何を期待(予測)しながら読めばいいのかわからない。
●テーマ特有の用語が出てきたとき、意味がわからず立ち止まってしまう。
●表面的な理解に終わってしまう。
●文法の習得にフォーカスしづらい。
このように、背景知識があるかないかで、「読解の深さ」や「文法の習得」に大きな差が生まれるのです。
翻訳者も背景知識がないと読解できない
背景知識が必要なのは、英語の初級学習者(中学生)だけではありません。じつは翻訳者も背景知識がないと英文を読み解けないのです。
私は翻訳の仕事をしているのですが、訳す前には必ず背景知識を仕入れておきます。
たとえば翻訳する内容のテーマが「クリケット」(スポーツの一種)であれば、次のようなことを調べておくのです。
- クリケットのルールや専門用語
- 歴史
- どんな国際大会があるか
- クリケットが盛んな国
- 盛んな国におけるクリケットが持つ意味
このような背景知識がないと、英文を読んでもチンプンカンプンになってしまうので、日本語に訳しようがありません。強引に訳したとしても、翻訳者自身がその日本文の意味を理解できないのです。
教科書の本文も同様です。子どもに背景知識がなければ、たとえ英文を訳したとしても、その文の意味を本当に理解したとは言えないでしょう。
中学生への教え方
「背景知識が大事なのはわかった。でもテーマの背景について子どもに教えるなんて大変!」と思われたかもしれません。
でも心配しないでくださいね。次のポイントを伝えるだけで大丈夫です。
子どもに伝えておきたいポイント
●本文には書かれていないが、本文のテーマを理解する上で助けになる情報
→ 「これを知らないまま本文を読んでも、ピンと来ないだろうな」と思われることを、子どもに教えておきます。
●本文の概要
→ 本文のキーワードを盛り込みながら、本文の内容をざっくりと説明しておきます。
教え方の例
では、教科書「NEW HORIZON English Course 3」(令和7年度版、東京書籍)に出てくるテーマ「エシカルファッション」を例に、教え方を具体的に見ていきましょう。
本文には書かれていないが、本文のテーマを理解する上で助けになる情報
「(1) 従来のファッション業界は多くの問題を抱えてきた。(2) その問題に対処するためにエシカルファッションが広まった」……という流れを子どもに説明します。
〈説明の例〉
(1) 従来のファッション業界は、多くの問題を抱えてきた
・大量の水や化学薬品を使うため環境に悪影響を及ぼす
・原料となる動物が劣悪な環境で飼育されている
・服が大量に生産され、大量に廃棄されている
・工場の労働者が低賃金で長時間働いている。また、児童労働も行われている。
●従来の問題について
ファッション業界が抱える諸問題(上記)のうち、労働環境以外の問題については、教科書本文ではくわしく取り上げられていません。
ですがあえて労働環境以外の問題についても説明しておくのがいいでしょう。「どんな問題を抱えてきたのか」という全体的な背景を知らなければ、エシカルファッションの意義を理解することはできないからです。
〈説明の例〉
(2) 問題に対処するためにエシカルファッションが広まった
・「エシカル・道徳的」とはどういう意味か
・エシカルファッションとは何か
●「道徳的」の意味
「エシカル」の意味について、教科書本文には、〈”Ethical” means “morally good.”〉とあります(p22)。訳すと「エシカルとは、道徳的に良いという意味だ」となります。
ですが「道徳的に良い」と言われても、どういうことなのかピンと来ませんよね。そこで、「エシカル・道徳的」という言葉の意味について解説しておくことをオススメします。
●「エシカルファッション」の定義
教科書の本文には「エシカルファッションとは何か」というはっきりとした定義が載っていません。
そこで、エシカルファッションの意味についても、ざっくりと説明しておくのがいいでしょう(たとえば「エシカルファッションというのは、環境・動物・労働者のことをきちんと考えて作られた衣服のこと」など)。
なお教科書には、「ethical fashion とはどのようなものか、自分の言葉で書きましょう」(p23)というエクササイズがあります(英語で答える課題です)。
本文ではあえてエシカルファッションを定義せず、子どもたち自身に考えてもらう、という狙いなのでしょう。
ですが多くの子にとって、このエクササイズは難しいと思います。「未知の言語」で書かれた「未知のテーマ」について、「未知の言語」を使って答えるわけですからね。
本文の概要
エシカルファッション業界の取り組みについては、教科書本文でくわしく取り上げられています。その概要を日本語で説明しておきましょう。
〈説明の例〉
エシカルファッション業界の取り組み
・水や化学薬品の量を減らす
・動物由来の原料(革、羊毛、毛皮など)を使わない
・リサイクルされた原料を使う
・労働環境を良くし、賃金を上げる。児童労働を禁止する。
「どんな取り組みがあるのか」という背景を知っておけば、本文を読み進めやすくなります。
たとえば教科書に〈they reduce the negative impact on animals.〉という文で始まるパラグラフがあります(p22)。「動物への悪影響を減らす」(p23)というファッション業界の取り組みについて書かれたパラグラフです。
もし背景知識があれば、上の英文を読んだときに「動物性の原料を使わない、という話が始まるのかな」と予測しやすいでしょう。
そして、予測しながら読み進めることで、本文をより深く理解することができます。
もし背景知識がなければ、「動物への悪影響を減らす」と言われても、何の話をしているのか見当もつきませんよね。
ここまで見てきたように、本文の読解に入る前に、テーマの背景について下の2つを教えてあげてください。
●本文には書かれていないが、本文のテーマを理解する上で助けになる情報
●本文の概要
まとめ
教科書の本文を読み解くのが難しいのは、なぜか? その原因として、この記事では下の点を取り上げました。
「未知のテーマについて、未知の言語(英語)で学んでいるから」
「未知のこと」を「未知の言語」で学ぶのは負荷が大きく、効率も良いとは言えません。
そこで、教科書本文の読解に入る前に、テーマの背景について日本語で説明することをオススメします。
背景知識があれば、本文をより深く読み解くことができます。また、本文のテーマを理解することに大きなエネルギーを使わずにすむため、文法の習得にフォーカスしやすくなるでしょう。
ぜひ、実践してみてくださいね。最後までお読みいただき、ありがとうございました。