現在完了形の経験用法を中学生にどう教えるか? その方法をご紹介します。
抽象的な表現をできるだけ避けた教え方なので、勉強が苦手な子も理解しやすいです。
中学生に教えるときの参考にしてみてください。
なお、この記事で取り上げるのは、経験用法の肯定文(平叙文の肯定文)です。
「どんな文を作るのか」を説明する
最初に「どんな文を作るのか」を子どもに説明しましょう。その際、具体的な例文を出すのがポイントです。
〈説明の例〉
これまで経験したことについて、「~したことがある」と言う方法を学習しよう。
たとえば、家庭科の調理実習でパンケーキを作ったとするよ。そのとき Aさんが Bさんにこう言ったんだ。
A: パンケーキひっくり返すの、うまいね!
すると、Bさんはこう答えたよ。
B: 何度も作ったことがあるんだ。
このように「~したことがある」という経験について言う方法を学習しよう。
具体的な例文があれば、「どんな文を作るのか」を子どもがイメージしやすいです。
逆に、説明が下のように抽象的だと「どんな文を作るのか」が子どもに伝わりにくいでしょう。
今日は経験用法を学習しよう。経験用法とは、現在までの経験を表すための方法だよ
学習の目的を説明するときには、具体的な例文を使うことが大事です。
過去分詞に慣れさせる
これまでの単元で、すでに過去分詞を習っている子の場合、(2)に飛んでください。
(1) 「過去分詞とは?」を説明する
(2) 経験用法の過去分詞に慣れさせる
「過去分詞とは?」を説明する
今回初めて過去分詞を習う子には、まず下の点を伝えます。
「~したことがある」という文を組み立てるには、過去分詞というパーツを使うよ。
そのあと、過去分詞について説明していきましょう。具体的な説明の仕方については、下の記事を参考にしてみてください。
「現在完了形の教え方【完了用法】」という記事の「「過去分詞とは?」を説明する」というセクションをご覧ください。
経験用法の過去分詞に慣れさせる
文の作り方に入る前に、「経験用法でよく出てくる過去分詞」を練習させておきましょう。
ウォーミングアップとして過去分詞だけにフォーカスするのです。
過去分詞にあらかじめ慣れておけば、問題を解くとき「過去分詞がわからず立ち止まってしまう」ということもありません。
単語レベルでつまずかないため、文全体の作り方に意識を向けることができます。
子どもに次のように伝えたあと、よく出てくる過去分詞を1~2回書かせてみてください。
「~したことがある」という文を作るときに、よく使う過去分詞があるよ。まずは過去分詞だけを練習してみよう。
経験用法でよく出てくる過去分詞はコチラです↓
経験用法でよく出てくる過去分詞
原形 | 過去形 | 過去分詞 |
---|---|---|
see | saw | seen |
hear | heard | heard |
eat | ate | eaten |
read | read | read |
watch | watched | watched |
visit | visited | visited |
〈have+過去分詞〉について教える
基本的な文の作り方を子どもに説明しましょう。
〈基本的な文の作り方〉
●「~したことがある」と言うには現在完了形を使う。
●現在完了形とは〈have+過去分詞〉というカタマリのこと。
私はパンケーキを作ったことがあります。
I have made pancakes.
●現在完了形の have は「持っている」と訳さない。〈have+過去分詞〉というカタマリ全体で、「~したことがある」という意味になる。
すでにほかの用法(継続用法、完了用法)を学習した子であっても、現在完了形の作り方を覚えているとは限りません。
そこで各用法を教えるたびに〈have+過去分詞〉という形に慣れさせることをオススメします。
「知識が定着するには時間がかかる」ということを前提に、復習しながら授業を進めましょう。
文の作り方を説明したあとは、文法問題に入ります。〈have+過去分詞〉のカタマリを作れるか確認してください。
日本語と同じ意味になるように、下線部に適切な語を入れましょう。
1. 私は京都を訪れたことがあります。
_ _ _ Kyoto.
2. 彼らはこの本を読んだことがあります。
_ _ _ this book.
解答
1. I have visited
2. They have read
hasを使うケースを教える
〈have+過去分詞〉を使う練習が終わったところで、has を登場させましょう。
わかりやすい教え方
has を使うケースを教えるときは、「3人称」という用語を使わずに説明するのがポイントです。
〈hasを使うケース〉
主語が「I・you 以外で単数」のときは、〈has+過去分詞〉というカタマリを使う。
ケンはパンケーキを作ったことがあります。
Ken has made pancakes.
上のように説明すれば、「人称」の概念がわからない子も理解しやすいでしょう。
haveとhasを同時に教えない
勉強が苦手な子に教える場合、〈have+過去分詞〉の演習が終わってから has の説明をするのがオススメです。
最初から has を使った文まで出してしまうと、子どもは下の2つのタスクを同時にこなさないとなりません。
- 〈have+過去分詞〉のカタマリに慣れる
- have と has を使い分ける
勉強が苦手な子は、複数のことを同時に処理するのがあまり得意ではありません。
ですので、〈have+過去分詞〉に慣れさせてから has について教える、というのがオススメです。少し時間はかかりますが、子どもが理解しやすくなりますよ。
has を使うケースについて教えたら、文法問題に入りましょう。
日本語と同じ意味になるように、下線部に適切な語を入れましょう。have と has、どちらを使うかよく考えること。
1. ケンはその話を聞いたことがあります。
Ken _ _ that story.
2. ケンとタクヤはこの動画を見たことがあります。
Ken and Takuya _ _ this video.
解答
1. has heard
2. have watched
〈have been to〉について説明する
「~に行ったことがある」という意味の〈have been to〉は、問題集や定期試験でよく出てきます。
教えるときのポイントは「gone ではなく been を使う」という点を強調することです。
〈教え方の例〉
「~に行ったことがある」と言うときには要注意!〈have been to〉というカタマリを使おう。
私は京都に行ったことがあります。
I have been to Kyoto.
「行ったことがある」という日本語を見ると、つい go の過去分詞〈gone〉を使いたくなるよね。でも、be動詞の過去分詞〈been〉を使うんだよ。
「~に行ったことがある」という文を見たら〈have been to〉というカタマリをパッと思い出せるようにしよう。
1回説明したからといって、子どもがすぐに覚えるとは限りません。折に触れて下のように質問してみてください。
“~に行ったことがある”と言うには、どんなカタマリを使うんだった?
授業中に何度か不意打ちで(?)質問しましょう。
「大事だから覚えてね」と言うだけでは、なかなか覚えられないものです。反復してたずねれば、子どもも〈have been to〉を意識しやすくなります。
〈have been to〉の説明が終わったら、並べかえ問題などにチャレンジさせましょう。
日本語と同じ意味になるように( )内の語を並べかえましょう。
1. 私たちは東京に行ったことがあります。
(been / Tokyo / have / to / we).
2. ユミは中国に行ったことがあります。
(has / China / Yumi / to / been).
解答
1. We have been to Tokyo.
2. Yumi has been to China.
回数を表す言葉などを教える
経験用法では回数を表す言葉(once, twiceなど)や〈before〉がよく出てきます。それについて子どもに説明しましょう。
〈回数を表す言葉など〉
●「何回経験したことがあるのか」を言うには、次の表現を使う。
1回 once
2回 twice
3回以上の場合〈数+times〉を使う。times には「回」という意味がある。
3回 three times
4回 four times
何回も・何度も many times
●回数を表す言葉は、文の最後に置く。
私は何度もパンケーキを作ったことがあります。
I have made pancakes many times.
●「以前、~したことがある」と言うには、〈before〉を文の最後に置く。
エリは以前、京都に行ったことがあります。
Eri has been to Kyoto before.
説明が終わったら、文法問題に取り組ませましょう。子どもが理解しているか確認してください。
日本語を英語にしましょう。下線部に入る語は、1語とは限りません。
1. 私は以前、その話を聞いたことがあります。
I __ that story __.
2. スミスさんはたこ焼きを何度も食べたことがあります。
Ms. Smith __ takoyaki __.
解答
1. have heard / before
2. has eaten または has had / many times
経験用法と過去形の違いを解説する
最後に、経験用法と過去形の違いを教えましょう。たとえば下の2つの違いを解説するのです。
I have made pancakes before.
I made pancakes yesterday.
私のオススメの解説方法を下のセクションでご紹介します。中学生に教えるときの参考にしてみてください。
経験用法と過去形の違い
この記事の冒頭で出てきた会話を思い出してみましょう。
A: パンケーキひっくり返すの、うまいね!
B: 何度も作ったことがあるんだ。
Bさんは単に、「何度も作った」という過去の出来事を報告したかったのではありません。
「何度も作ったことがあるから慣れているんだ。パンケーキ作りは得意なんだ」というメッセージを伝えたかったのです。
このように、「~した経験があるから、今こうなっている」と伝えたいときには経験用法を使います。
何度も作ったことがあるんだ。
I have made pancakes many times.
ここでは〈I have made pancakes many times.〉の中に、「パンケーキを作るのは得意なんだ」というニュアンスが込められています。
「何度も作った経験があるので、今こういう状態になっている」という意味の文なのです。
現在完了形は過去の出来事に触れながら、じつは「今」にスポットライトを当てているのです。

一方〈I made pancakes yesterday.〉という過去形の文には、「今どうなっているか」というニュアンスは含まれていません。
単に「パンケーキを作った」という過去の出来事を伝えているだけです。過去形は、あくまで過去にスポットライトを当てています。

現在完了形(経験用法)
→「~した経験があるから、今こうなっている」というニュアンスが込められている。
過去形
→「~した」という過去の出来事を伝えている。
●現在完了形と過去形の違いについては、下の記事でくわしく解説しています。
「現在完了形と過去形の違いを豊富な例文で解説」
イラストを使ってわかりやすく解説しています。ぜひご覧ください。
●現在完了形と過去形の違いは、授業の始めに解説する場合が多くあります。ですが勉強が苦手な子の場合、最後に解説するのをオススメします。そのほうが、子どもが授業を理解しやすくなるからです。
この点についてさらにくわしく知りたい方は、下の記事をご覧ください。
「現在完了形の教え方【完了用法】勉強が苦手な中学生への指導法」という記事の「なぜ最初に解説しないのか?」というセクション
今回は、経験用法(肯定文)の教え方についてお伝えしました。この記事が少しでもお役に立てましたらうれしいです。